2012年5月4日金曜日

田中俊一氏に聞く 「既存の技術 改良すべき」

田中俊一氏に聞く 「既存の技術 改良すべき」 - 東日本大震災|福島民報 2012年5月4日 3面

【除染作業に伴う技術開発の在り方は】

■既存の技術 改良すべき
東京電力福島第一原発事故で拡散した放射性物質の除染作業が本格化する中、NPO法人放射線安全フォーラム副理事長で県除染アドバイザーなどを務める田中俊一氏に除染作業に伴う技術開発の在り方などを聞いた。

-除染の技術開発についての考えは。

「土壌やコンクリート、樹木などに付着した放射性セシウムの除染には2つの課題がある。第1に放射性物質を減らす目標を達成できるかどうか。2番目は広範囲に土壌などを除染する場合に生じる廃棄物をどう抑制するか。効率的に、費用を抑え、廃棄物を減らすことが重要だ。新たな技術より実践の積み重ねが必要となる。特に目新しい技術が求められるものではない」

-現場で作業するに当たり、求められる技術は。

「例えば、側溝などの細かい部分、芝や土手などの表面を薄く削れるような道具があれば作業が楽になる。既に存在する技術を、現場の環境に合った形に改良すべきだ。一瞬で放射性物質を除去する魔法のような技術はあり得ない。コスト意識も大切だ。行政はゼネコンなど大手に頼りがちだが、地元の住民が家や田畑などで使える小型の機器が出回れば、除染が進むのではないか」

-既に開発された技術で効果的なものはあるのか。

「舗装面ではショットブラストは実績がある。放射線量を低減でき、削り取ったくずなどを吸引しながら作業ができる。一方、高圧洗浄には誤解がある。道路や雨どいの放射性セシウムが付着した土や葉を水でかき集めるために使うものだ。除染の効果は得にくい」

-国は除染のモデル事業に取り組んでいる。

「モデル事業は、さまざまな技術を使った結果を示すだけにとどまっている。住民が求めているのは『早く地域をきれいにしてほしい』ということ。除染対象に応じて推奨される技術と効果を具体的に示さなければ、地元の期待に応えられない。多様な技術から最も優れた部分を集約し、共有できるようにすべきだ」

-本県には広大な農地や山林がある。

「原発事故発生後に耕された田畑は除染が難しい。農作物への影響を防ぐため、放射性セシウムの移行を防ぐ取り組みと合わせて考えなければならない。山林は少しずつ作業を進めるしかない。一度に樹木を伐採すれば土砂崩れの懸念がある。地面に落ちた葉は除去、人家に近い木は一部を切るなどの作業が必要だ」

-除染の廃棄物対策をどのように進めるべきか。

「放射性セシウムは粘土やゼオライトなどに付くと安定する。しっかりと移動しないように処分すればいい。政府は中間貯蔵施設で放射性セシウムを除去し、最終的に県外に搬出するとしているが、莫大(ばくだい)な費用と時間を要する。個人的には各市町村で十分な安全対策を施した処分場を設け、収容するのが望ましいと考えている。住民の生活環境を守るための除染を進めるには、地元にも相応の対応が求められる」

たなか・しゅんいち
福島市出身。会津高、東北大工学部原子核工学科卒。日本原子力研究所に勤務し、内閣府原子力委員長代理などを歴任。昨年7月から県と伊達市の除染アドバイザー。67歳。